コンセプトカー、それは自動車メーカーが今後のデザインや技術の方向性を表現する目的で製作される展示用の自動車です。
イギリスにあるインダストリアルデザインスタジオのVitalAutoは、ボルボ・日産・ロータス・マクラーレン・ジーリー・タタなどの大手自動車メーカーを顧客に持ち、顧客のアイデア・初期スケッチや図面、または技術仕様などをもとに、最先端のテクノロジーを使いながらコンセプトカー製作を担っています。
「顧客は通常、彼らの限界を超えるために使えるテクノロジーを最大限使いたいと考え、私たちのところにやって来るんですよ。」とVital Autoのイノベーション及びエクスペリエンタルテクノロジー担当の副社長であるShay Moradiは言います。
本記事では、Formlabsで急成長しているイギリスのリセラーSolidPrint3Dの顧客であるVital Autoがどのように3Dプリンターを使ってコンセプトカー製作をしているのかをご紹介します。
【SLS方式とSLA方式、それぞれの用途を事例を通してご紹介】
VitalAutoがコンセプトカー製作時に使用している3Dプリンターは、大型SLS方式3Dプリンターの「Form 3L」そしてSLS方式3Dプリンターの「Fuse 1」です。
それぞれの3Dプリンターの特性をうまく利用し使い分け、複数導入により生産性を高め、顧客のアイデアや要望を迅速に形にしています。
大型SLA方式3Dプリンター「Form 3L」及びSLS方式3Dプリンター「Fuse 1」の導入において、
・SLAとSLS、どちらの導入が自分にあっているのか?
・それぞれどのような用途に使い分けることができるのか?
など用途における疑問をお持ちの方にご参考いただければ幸いです。
▲大型SLA方式3Dプリンター「Form 3L」の詳細はこちら
▲Formlabs社初のSLS方式3Dプリンター「Fuse 1」の詳細はこちら
Vital Autoでのコンセプトカー製作
Vital Autoは3人の友人同士が集まり2015年に小さなガレージからスタートしました。
最初の案件はNIO EP9スーパーカーのコンセプトカー製作。3人はすぐに忠実に顧客のアイデアを再現できるプロトタイプを製作できるチームを作りました。
顧客が一枚の紙に描いたラフスケッチから、しっかりデザインされたものまで、作業をどこからはじめるかは顧客の状況や希望に合わせて臨機応変に対応します。
Vital Autoでのコンセプトカーの製作は、白紙の状態から全てのメインフレーム・エクステリア/インテリア要素・開閉機能やインタラクティブな要素まで全てのデザインや設計をチームでおこないます。
1つのコンセプトカーに5~30人が取り組んでる場合、通常3~12ヶ月かかるそうです。
一般的なコンセプトカー製作には、大まかに約数十個のコアデザイン要素をお互いの納得のいくまで議論し、デザインの提案をします。そしてそのコアデザインの中にさらに細分化された要素があり、全てひとつひとつ、顧客の期待に沿うまで何度も話し合いやデザインの提案を繰り返していきます。
「私たちの業界では、その製品を評価する手段として仮説をたて議論しますが、実際にそのデザインを形にしたものを手に取って確認することが重要だと思っています。適切な重量なのか・比率なのか・その機能が備わることによってどのように人々の環境を変えることができるのか、などの感覚は”実際に手に取ってみる”ことに勝るものはありません。」
と副社長であるShay Moradi氏は語ります。
「私たちの顧客のほとんどは、革新的なアイデア、そしてこれまで世の中になかったようなアイデアを持って私たちのところに来ます。なので、私たちの挑戦に終わりはないですけど、全ての案件が面白いですね。」とAdditive Manufacturing設計担当エンジニアのAnthony Barnicott氏は言います。
さらにBarnicott氏は「時間内にこれだけの数の部品を生産するためにはどうするべきか、どうやったらサスティナブルな製品を作れるか、そして機能を満たしながら目標の重量にどうやって近づけられるかなど、私たちの挑戦は様々です。」と日々の彼らの挑戦について語ってくれました。
これまで彼らの場合、コンセプトカーの製作には、スライスされた粘土と3軸及び5軸のCNCフライス盤、手作業による成形、手作業での粘土モデリング、そしてGRP複合材を使用していました。
しかしこのような従来のプロセスでは、1回限りのコンセプトカーに必要なカスタムパーツを作るのにコストも時間も膨大にかかってしまいます。
「私たちは昔から3Dプリンターも少しずつ使用していました。3Dプリンターはコストを削減するだけでなく、顧客のアイデアやデザインの多様性/柔軟性を高めるためにもプロセスに導入したかったんです。」とBarnicott氏は言います。
そして現在では、14台の大型FDMプリンター、3台の大型SLA方式3Dプリンター「Form 3L」そして、5台のSLS方式3Dプリンター「Fuse 1」を全体で運用しています。
これらの3Dプリンターは、コンセプト設計とデザイン設計の全ての分野で使用されており、導入初日からほぼ24時間年中無休で100%稼働させているそうです。
使い分けとしては通常、生産ベースの部品には最終製品が造形できるFuse 1を使用し、コンセプトベースの部品にはForm 3Lでプロトタイプを製作しているとのこと。
Form 3Lでの造形事例
彼らは、最重要とされているA-クラスの表面仕上げが必要とされる部品に関してはForm 3Lを使用しています。
Formlabsが提供している材料では、滑らかな表面を作り出すことができ、ペインティングチームがそのまま上から塗装して自動車にセッティングできるとのことで、Vital Autoでは好評です。
「Form 3Lで私が最も良いと思っている点は、その汎用性です。5分未満でForm 3Lでの材料交換が簡単にできますしね。そして柔らかい材料から硬い材料など、Formlabsの持つ材料の多様性はとても貴重です。」とBarnicott氏は言います。
Vital Autoのチームは、Form 3Lを使ってそれぞれの用途に適した材料を選び、パーツを製作しています。
以下はForm 3Lを使ったパーツの製作例になります。
通気孔の場合
特許商品をVital Autoに持ちこみ、オリジナルデザインに落とし込みたいと考えている顧客はたくさんいます。その実現はVital Autoにとっても毎回大きな挑戦です。
ある顧客は、他社が特許をとっている通気孔を自社の車に実装したいと考え、その通気孔を実際に持ってきたこともあったそうです。
その時は3Dスキャン技術を使い、顧客が持ってきた通気孔を3Dモデル化、そして新しいデザインを施し、それをドラフトレジンを使ってプロトタイプの製作を行いました。
顧客と確認しながらデザインなどの微調整を行い、最終的にホワイトレジンで部品を製作しました。
スイッチパックの場合
小さなスイッチパックなどの非常に複雑なデザインが必要とするパーツの場合、正しく機能するかどうかその場の確認だけでなく、実際の環境での使用が可能かどうか環境面での確認も必要になります。
想定される環境で実用できるように、その環境に合った材料を複数使用します。
あるスイッチパックの場合、実際の環境に耐えられるように部分的に硬い材料であるタフ2000を上面に使い、下部は別の材料を使うなどして、機能性そして費用対効果の高い材料を組み合わせているようです。
ドアシールの場合
通常、ドアシールは押出成形法で製造するので、非常に高額な工具費だけでなく、時間もかかるのが難点です。
しかし彼らはFormlabsの材料の一つであるフレキシブル80AをつかってForm 3Lでこのドアシールのセクションを造形したところ、一晩で製作することができました。
この時間短縮と費用の削減で様々な形状をテストすることができるようになったようです。
Form 3Lを使用すると、ほとんどの場合24時間以内にパーツに対しての反復型開発が可能になります。
Vital Autoの場合、FDM方式3Dプリンター、大型SLA方式3DプリンターのForm 3L、そしてSLS方式3DプリンターのFuse 1という3つの異なる機械を導入したので、3つの異なる材料の使用や、同時に最大3種類の反復型のデザイン開発が可能になりました。
複数の異なる方式の3Dプリンターを使うことによって、コスト削減から顧客への還元が実現し、同じ価格で複数の設計オプションを提案することも可能になり、より多くの価値提供が実現できるようになったと言います。
「3DプリンターのようなAdditive Manufacturing技術を使用するメリットの一つは”時間の短縮”です。そうしてできた時間を使って、想像力を膨らまし、様々な反復型にデザイン開発する時間を追加することができるようになり、お客様の要望を迅速に実現可能となります。」とMoradi氏。
更にBarnicott氏は、「私たちが製造している製品の多くは、Form 3Lなしでは実現できません。もちろん7軸CNC機械加工などの最先端の製造技術を使用すればこれらの部品を製造することはできますが、莫大なコストがかかりますしね。」と続けます。
▲大型SLA方式3Dプリンター「Form 3L」の詳細はこちら
Fuse 1での造形事例
「私たちにとってFuse 1はSLSテクノロジーへの最初の一歩でした。高額で難易度が高い3Dプリンターでもあったので、私たちのような中小企業では、SLS方式3Dプリンターを持つことは決してないと思っていましたが、今では5台のFuse 1を導入しています。」とBarnicott氏は言います。
Fuse 1でできることはテスト部品の造形だけでなく、最終製品として機械構造部品を非常に迅速に製造できることも大きな利点です。
通常、機械構造部品を製作するには、形状に応じてオンサイトもしくはオフサイトのいずれかでCNC機械加工によって行われます。
そのため部品を手に入れるには最低でも2〜4日程度かかりますが、Fuse 1を導入すると、これら全てのプロセスを全て現場でカバーすることができ、ほとんどの場合、24時間以内に部品を手に入れることが可能となります。
Vital Autoのチームは主に、ドアヒンジ、ドアハンドルのインナー、ドアの内部、構造用途などの機械部品の製作にFuse1を使用しています。
以下はFuse 1を使ったパーツ製作の例になります。
ドアハンドルの場合
多くの自動車内装部品は、従来の射出成形を使わずに製造するのが非常に難しい場合があります。
Vital Autoではエアダクトやベントなど表には出ない部品や、製造に多額の費用がかかる部品に、Fuse 1を使用しています。
Fuse 1を使うことにより、通常時のような多額の費用をかけずに、車両に搭載するパーツのデザインを様々な角度から設計し提案することができるとのことです。
ブレーキキャリパーの場合
顧客の中には特定の部品に自社のブランドを混ぜ込みたいとことがあります。
そのような要求に迅速に対応するため、Fuse 1を使っています。
一例としてブレーキキャリパーがあり、Fuse 1を使ってブレーキキャリパーを製作する際に、様々な箇所にロゴを入れて顧客に提案をしています。
インタラクティブコンセプト
Form 3LとFuse 1両方を使うことにより、SLAとSLAの材料を組み合わせて、迅速に様々なデザインを提案することができます。
Form 3LとFuse 1の方式を使い分け、それぞれの方式がパーツのどの部分に適しているかいるかどうかを考え、色々な形でパーツにそれぞれの方式の良さを実装していくことにより、最終的に多様なデザインや機能の提案が可能になります。
Additive ManufacturingはSubtractive Manufacturingに取って代わるとよく言われますが、Vital Autoチームは、様々なテクノロジーを組み合わせることによって最高のクオリティを生み出すことができると考えています。
「私たちは、3Dプリンターを使うプロセスと使わないプロセスを並行して使用し、お互いの足りない部分をサポートしています。まずはSubtractive Manufacturingを使用し、次にAdditive Manufacturingを使用して細かいディテールを生成しているパーツが多数あります。このように1つの技術に偏らず、様々な技術を駆使することにより、クオリティと費用効果を高めることが可能になります」とBarnicott氏は語ります。
▲Formlabs社初のSLS方式3Dプリンター「Fuse 1」の詳細はこちら
3Dプリンターで顧客のアイデアを忠実に再現するコンセプトカーの製作を実現する
Barnicott氏は、「過去10年間の3Dプリント技術の進歩は驚異的です。私が最初に少量の車を生産し始めた時の技術では、私たちが今生産している製品のいくつかは作れなかったでしょう。そして、現在ではこれらの部品を製造できるだけでなく、非常に費用対効果が高く、スピード感を持って製作することもできるんです。」と言います。
3Dプリンターは、チームがより良い製品をより迅速に製作するのに役立つだけでなく、新しいビジネスを生み出すことにも繋がっていきます。「最新のテクノロジーを使ってみたい」「最先端の材料を使用して製作したい」という、多くの顧客がVital Autoが持つ技術に頼って集まりました。
「3Dプリンターで製作するものは、そのまま最終的なプレゼンテーションでも使用できるほど十分なレベルにまで技術が進んでいます。3Dプリント技術は私たちの仕事からは切り離せないものになりましたね。」とMoradi氏は話します。
本記事は、Formlabs公式サイトのものを一部和訳したものとなります。
引用元:Formlabs公式HP "How the Concept Cars of Tomorrow Are Made With 3D Printing”(英文)
<3Dプリンターに関するお問い合わせ窓口>
平日 10:30-13:00・14:00-17:00
Mail: sales@yokoitokyoto.com
TEL: 075-354-6424
Comentarios