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3Dプリンターのスペックの意味とは、3Dプリンタースペックの神聖化について


今回はJon Bryant(Formlabs カスタマーチーム長)が、何百という業界プロと仕事をしてきた自らの経験から、3Dプリンターソリューションの正しい評価軸のあり方について書かせて頂きます。

この記事に書かれていることは3Dプリンターを理解する上で一番難しい部分になります。私自身も最初、切削機の感覚で3Dプリンターのスペックを読んでいたのでとても混乱したのを覚えています。もし少しでもわからないところがありましたらご遠慮なくお問い合わせ下さい。

※原文筆者:Jon Bryant(Formlabs カスタマーチーム長)

2014年に3Dプリンター業界は爆発的発展を遂げ、多数の新企業が次世代の3Dプリンター革命児を自負して業界になだれ込んできた。毎週のように新しい会社が「新しい」機能や「ユニークな」スペックを謳歌し、参入を試みていたのだ。

当然、これらの新鮮な動向は消費者やビジネスバイヤー達の目にとまることとなる。そして新しい製品がローンチするたびに、彼らは3Dプリンターの新しい活用方法、特に工業エンジニアリングとデザインプロトタイピングに関心を寄せた。しかし関心が集まると同時に、無意味なマーケティング材料としての専門用語や無駄に複雑なスペック表の使用も始まった。

そのトレンドの例として、下の図をご覧いただきたい。

一般的なスペック比較表である。

皆さんは表を見てどのような感想を抱くだろうか。私は大文字のアルファベット、数字、そしてカッコがよく目立つ、くらいの印象しかない。もし私が素人だったとしたら、この表をみてハイライトされている製品を選ぶのが一番利口だと思ったことだろう。(よくはわからないが)一番良いスペックと一番良い数字が書いてある製品が一番に決まっているではないか、と。

しかし実際にこの表に書いてある情報は、大して意味のあるものではない。

この表は業務用の3Dプリンターを購入するときに一番気にするべき情報、つまりパーツの仕上がりがどのようなものになるのかということを教えてはくれないのだ。このようなマーケティングアプローチでは顧客が自分に合った3Dプリンターを選ぶ手助けをすることはできないし、長期的に見て3Dプリンター業界の成長のためにもならない。

今回の文章は現存するすべての3Dプリンターのスペックを専門的に解説しようというものではない。むしろ目的は3Dプリンターのスペックが実際には何を意味するのかについて語り、個人や企業のプリンター選択を手助けすることにある、とここで述べておこう。

「XY解像度」

これは光造形方式について一番頻繁に語られるスペックである。そして多くの場合、一番意味のないスペックでもある。

一般的に、XY解像度はパーツのディテールや特徴を表現するのに使われる。先ほどの表では25~80ミクロンと書かれているDLP-SLAプリンターのXY解像度は一見すばらしい。では実際にこれは何を意味するのかというと、おそらくプロジェクターの解像度のことだ(数字ではなく範囲として記されているのもそのためであろう)。

表の数字だけでは全体像らしきものは全く見えない。結局プリンターのアウトプットを左右する要素は無数にある。しかし上のようにXY解像度のみを見ることによって、まるでプロジェクターのピクセルサイズと、プリントされたパーツの処理後レジンの比が1:1であるような気がしてくる。

素材そのものや、プリントするプロセス、使用されるソフトウェアなどの多数の変数を考慮しない上の数字は、つまり実際のプリンターの動作を吟味するにおいてなんの意味もないということになる。(業務用プリンターはプリントされたパーツの質を左右しうる100以上の変数を持っている)

「積層ピッチ」

このスペックは一般的にパーツ表面精度を表現するのに使われる。ここで問題になるのは、スペックの数値として積層ピッチは低いほうが良いと言われているが、表面粗さはこの積層ピッチの値が低いか高いかとはあまり相関がないことである。

積層ピッチと表面精度の関係は、必ずしも予想通りにはいかないということを説明する例として、Form2を使っていくつかパーツをプリントしてみた。

下に二つの指輪がある。一つはキャスタブルレジンでプリントされており、もう一つはブラックレジンのものだ。キャスタブルレジンの表面はもう片方に比べてわずかになめらかになっており、Micro Pave(リングの石をセットする部分)が少しハッキリしていることがわかるであろう。

ブラックレジン

キャスタブルレジン

と、ここで注目してほしいのが、実はキャスタブルの方は50ミクロン、ブラックの方は25ミクロンでプリントされているのだ。

これはどういうことなのか。実はキャスタブルの指輪の方が50ミクロンで仕上がりが良いのは、単純にFormlabsのキャスタブルレジンが50ミクロンの設定で一番仕上がりがよくなるように作られているからであり、加えてFormlabsのチームがプリント/素材の設定をキャスティングに合わせて調節していたからである。

レイヤーの高さではなくz軸の解像度を表記する会社もあるだろうが、これはXY解像度と同じ程度の情報にしかならない。z軸モーターが駆動可能な範囲の説明にしかなっていないからである。

要するに、プリンター製造者がいくら“〇〇レイヤー数”を謳っても、別にプリンターの表面の仕上がりが良くなるわけではないということだ。

「最大スピード」

これは数値化するのが難しい変数で、特に複数の異なるタイプのプリンターにわたって使用するには少し無理がある。上記項目と同じように、この数字も独立した情報としてはあまり意味がない。プリント時間を左右する一般的要素はたくさんあるし、幾何的要素やパーツの向きなども計算に入れなければならないからである。

例えば、同じ大きさのパーツでも縦に長く置かれたものは、横に長く置かれたものよりもレイヤーが多いのでプリントに長い時間を要する。さらに、その向きやサポートの形にもプリントの時間は影響を受けるのだ。

よくある質問は、「そのプリンターが各辺1インチの立方体をどれだけ早くプリントできるか」というものであるが、ここでの問題はその質問がとても具体的(ゆえに限定的)であることである。その顧客がサイコロ製造者でもない限り、1インチ立方体でプリント時間を図るのはあまり賢明ではないといえよう。

「表面精度」

これについてはもう語ることすらバカバカしい。そもそも「良い」or「悪い」がスペックの定量化として成り立つのであれば、だれも苦労などしないのだ。表面精度については「積層ピッチ」でカバーしたが、あえてもう一つ言っておこう。表面精度をはかれるスペックなどない。表面精度は幾何的要素(曲線/直線など)や向きによって変わる。本当にプリンター間の表面精度を比較するとしたら、3Dプリンティング会社がみな業界標準のパーツをプロフィル計測しその記録を公開する必要がある。そしてそんなことは当分ありえそうもない。

「精度」

このスペックは上の表にはないが、いくつかの3Dプリンター企業が近頃公開しているものである。3Dプリンター購入者が良くおかす間違いは、XY解像度や積層ピッチが最終的にパーツの精度を決めると思うことにある。

実際は普遍的な精度は決定するのが難しい。これもまた主に長さや幾何性、そして向きによる影響があるからである。下にあるのは大型工業機械の精度詳細である。

 

※画像内文章訳

大型工業機械の精度詳細(値段:$100,000ほど)

一方向当たり0.001-0.002/1インチ(0.025-0.05mm/25.4mm)のずれ

※精度は造形設定値(パーツの形、サイズ、設置方向、後処理)によって変化します。

 

一見25-50ミクロンほどに見えるが、実際は注意書きの下にパーツ生産におけるすべての要素に影響しうることが書かれている。

「より良い業務用3Dプリンターの評価方法」

ここまでいろいろと語ってきたが、私は読者の皆さんに「3Dプリンター業界はみんな客をだまそうとしている」なんて思ってほしくはない。

しかし、3Dプリンター業界そのものが、顧客に十分な情報を提供できるほど標準化された評価軸を持ち合わせていないというのも事実だ。他の成熟した技術業界でさえ、スペックのみが十分な情報ではない。私は高スペックWindowsが低スペックMacに負けるスピードテストを目の当たりにしたことだってあるのだ。

大事なのは、アウトプットがハードウェア、オペレーティングシステム、アプリケーションなどといった多数の要素に左右されうることを忘れないことだ。

絶望する必要はないのだ。以下は、違った3Dプリンター同士を比較する際に訳にたつであろう、読者からのアドバイスである。

  • 企業に話を聞く。

3Dプリンターへの投資は、回転率を高めよりよい製品を作るための投資である。そのテクノロジーや仕組みについて詳しく知るには、やはりそれを作ったチームに話を聞きに行くのが最善であろう。

  • サンプルパーツをもらう

3Dプリンターのスペックが実際のアウトプットを評価するうえであまり役にたたないことは既に述べた通りである。自分にあったプリンターかどうかを吟味するためにはサンプルパーツをリクエストするのがいいだろう。(無料サンプルパーツのように)サンプルを手に入れたら、より詳しい話をきこう。

例)

このサンプルをプリントするのにどれくらいの時間がかかったのか

どれほどの素材を必要としたのか

積層ピッチはどれくらいか

この作業をいくつかの企業に対して行うことで、積層ピッチが同じでも、プリンターごとに表面精度は違うことなどが実感できるはずだ。

  • カスタムパーツを注文する

全ての会社がこれに応じてくれるわけではないが、頼んでみて損はないだろう。(若しくは同じ3Dプリンターを使い出力サービスを行っているところで出力してみる)プリントされた自分自身のデザインを見ることで、そのプリンターを導入したときの未来をより具体的に想像することができる。自分のデザインのほとんどが流出不可の知的財産である場合、そのデザインと似た特徴のあるものを注文すると、秘密保持契約などについて頭を抱えなくてすむ。

  • デザインガイドを探す

ほとんどの3Dプリンター会社は、自社のプリンターをよりよく活用するためのモデリング手法などを知ってもらうために、デザインガイドを公開している。「Formlabs デザインガイド」のようなガイドはタイプ別のスペックなども提供している。

 

無料造形サンプルのご依頼を承っております。この機会に是非formlabs Form2の性能をご体感ください。

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